北朝鮮拉致事件関連年表・資料

 

北朝鮮 韓国の高校生3人も連れ去る 1978年、日本人拉致疑惑と同時期
 

韓国の情報機関・国家安全企画部はこのほど、北朝鮮から韓国にひそかに派遣された工作員夫婦による大掛かりなスパイ事件を摘発したが、その取り調べから、北朝鮮の工作員が韓国で一九七八年に高校生三人を拉致(らち)し北朝鮮に連れ去った事実が明らかになった。これは日本で問題になっている女子中学生・横田めぐみさん拉致疑惑をはじめ、北朝鮮の工作員によるとみられる日本人拉致疑惑が相次いだ時期にあたり、北朝鮮に対する疑いを裏付けるものとして注目されている。(ソウル 黒田勝弘)


 韓国での高校生拉致事件は今回、検挙された北朝鮮工作員の崔ジョンナム(三五)の自供から確認された(妻のカン・ヨンジョンは取り調べ中に服毒自殺)。

 国家安全企画部の発表によると、一九七八年八月五日、韓国南西部の全羅北道・群山市の沖合の仙遊島海水浴場で失そうした群山工高一年・金英男君(当時十六歳)と、同じく八月十日、全羅南道・紅島の海水浴場で失そうした天安農高三年・李明雨君(同十七歳)、天安商高三年・洪建杓君(同)の三人はいずれも北朝鮮から派遣された工作員により拉致され、北朝鮮で工作員を教育する教官になっているという。

 拉致したのは対南工作機関の一つである朝鮮労働党作戦部の「海州三〇一連絡所」所属の工作員で、「六・二五(朝鮮戦争)の時の越北者は年老いたので新しい人間を拉致して工作に利用しろ」との金正日総書記の指示で実行に移されたという。三人の年齢は現在、三十代半ば。韓国にスパイやテロ活動のため送り込まれる工作員たちに対し、韓国の事情や言葉遣いなどを教えるいわゆる「以南(韓国)化教育」を担当させられている。李明雨君は「マ教官」、洪建杓君は「ホン教官」と呼ばれ、今回、検挙された崔ジョンナム夫婦も彼らから「以南化教育」を受けたことがあるという。

 日本で横田めぐみさんが新潟の海岸で失そうしたのが一九七七年、大韓航空機爆破事件の金賢姫・女性工作員に「日本人化教育」をほどこした「李恩恵(リ・ウンヘ)」こと田口八重子さんの失そうや、アベック失そう事件は一九七八年に相次いで起きている。

 韓国の関係当局は、日本と韓国での一連の失そう事件は時期からみて北朝鮮の工作機関による計画的、組織的な拉致事件で、何らかの事情でこの時期にそうした若い日本人や韓国人が工作活動上、必要だったのではないかとみている。
 一方、検挙された崔ジョンナムの自供から、韓国で二月に起きた北朝鮮亡命者「李韓永殺害事件」も北朝鮮の工作員による犯行と分かったが、潜入工作員によるこの種の「報復テロ」が確認されたのは初めてだ。

 李韓永氏(三七)は金正日総書記の元・内妻のオイにあたり、韓国に亡命後、金正日総書記の私生活など内幕を暴露する手記を出版したため北朝鮮工作機関から命を狙われた。自供によるとこの報復テロ実行のため、同じく対南工作機関の一つである朝鮮労働党社会文化部からテロ専門の二人組の「暗殺班」が送り込まれた。
 二人は暗殺に成功して北朝鮮に帰還した後、「英雄称号」を授与され、今後さらに韓国に派遣されるときに備えて顔の整形手術までしたという。

 崔ジョンナムの自供によると、彼ら夫婦のスパイ活動の目的には、先に韓国に亡命した黄長●・元書記の所在先の確認が含まれている。「報復テロ」のための情報収集とみられるが、韓国の関係当局は厳重な保護下にある黄氏の身辺安全についてさらに警戒を厳重にしているという。

●=火へんに華

 

産経新聞1997年11月27日 東京夕刊