北朝鮮拉致事件関連年表・資料

 

<北朝鮮工作員>万景峰が深く関与 日本で対南工作 (毎日新聞-全文)
 

2003年1月29日(水)3時4分

 日本と北朝鮮を結ぶ不定期貨客船「万景峰(マンギョンボン)92」(9672トン)が、北朝鮮の「対南(韓国)工作」に深く関与していたことが警視庁公安部の調べで明らかになった。北朝鮮の対南工作が日本を拠点に行われていたことも判明。北朝鮮の「工作国家」の一面が、浮かび上がった。拉致を認めた昨年9月の日朝首脳会談後、入港禁止を求める声も出ていた同船に対する批判が、さらに強まりそうだ。
 別の在日朝鮮人になりすまして外国人登録証を更新していたとして、近く公正証書原本不実記載、同行使容疑などで書類送検される朝鮮労働党統一戦線部の工作員の男(72)は、本国からの指令を同船を通じて受け取っていた。男は、船長に託された対南工作内容を指示する書類を、同船内や新潟市内の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)祖国訪問事務所を通じて受け取っていた。統一戦線部の担当者が乗船し、船内で指導を受けることもあった。工作結果の報告は、逆ルートでやはり同船を通じて報告されていた。
 「万景峰92」は、在日朝鮮人の帰還事業に使われた初代「万景峰」や「三池淵」に代わり、92年6月に就航。新潟港を中心に年間20〜30回来航し、94年には5677人が訪朝した。01年の訪朝者も2541人に上る。在日朝鮮人の「祖国往来」が、主な渡航目的とされてきた。
 しかし、公安当局はこれまでも、本国の指示を朝鮮総連幹部に直接伝える「船内招致指導」や、日本から多額の現金が不正送金されるのに同船が使われていた疑いがあるとみていた。しかし、船内の立ち入り検査は、関税法、海上保安庁法とも任意となっており、実態は不透明なままだった。
 昨年11月に新潟に入港した際には、日本政府が入国拒否したばかりの朝鮮労働党幹部が乗船していたことが判明。朝鮮総連最高幹部が乗船し「船内招致指導」を受けた疑いが指摘されていた。この人物は、朝鮮総連を監督する総連課幹部とみられている。
 昨年末には、福田康夫官房長官や扇千景国土交通相が同船への検査強化に言及し、今月15日の入港の際には検査態勢が強化されたばかりだった。
 今回、同船が日本を拠点とした北朝鮮の「対南工作」に関与していたことが明らかになり、公安当局は同船に対する監視活動をさらに強化するとみられる。

 書類送検される工作員は朝鮮労働党統一戦線部に所属していた。同部は「対南(韓国)工作」を中心的に担うとともに、最近まで朝鮮総連の指導も担当していた。同部傘下の「アジア太平洋平和委員会」は、日本政府や政治家との窓口の役割を担った。警視庁公安部は、統一戦線部の日本国内の工作員に対する指示内容など、活動実態の解明を進める。
 統一戦線部は77年設立。北朝鮮の四つの工作機関の中では最も新しい。他に、工作員の教育や派遣を担当する「対外連絡部」▽工作活動全般を担当する「対外情報調査部」▽工作員の送り込み、案内などを担当する「作戦部」がある。久米裕(ゆたか)さん拉致事件で国際手配された金世鎬(キムセホ)容疑者(74)は、対外情報調査部の上級幹部だった。
 統一戦線部は、南北会談など公の活動や、日本、米国への活動も担った。アジア太平洋平和委は94年設立。同委幹部は日本の外務省や旧社会党、自民党などの政治家の一部との接触も保った。
 しかし、現在は同部の権限が縮小され、アジア太平洋平和委の活動も休止状態という。

[毎日新聞1月29日] ( 2003-01-29-03:04 )