資料
なぜ米国に行かなければならないのか
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◆打てば響く反応の米国 二月下旬、被拉致(らち)家族と支援者十一名は米国を訪問、米国務省、議会関係者、人権団体などに会って「拉致は、現在進行中のテロ」と説明、解決に協力を要請した。 それに対して「米国は、日本政府や政界と違って、打てば響く反応を示し、本当に心強かった」と家族は一致して強調していた。 しかし、このような米国の反応は、ブッシュ政権だからで、クリントン前政権なら考えられないことである。 わが国政府は、クリントン政権の北に対する「軟着陸政策」、金大中政権の「太陽政策」などに歩調を合わせ、昨年だけで、拉致問題になんの進展もないのに、金正日政権に二回、合計コメ六〇万トンも援助した。 三月七日の米韓首脳会談で明らかになったことは、ブッシュ大統領の金正日政権認識は、「透明性がない」「秘密主義」「約束を守らせる検証手段が必要」。また、パウエル国務長官は「一人の人間に権力が集中した専制的で破産した国家」(三月八日下院外交委発言)という不信を表明、金大中大統領のそれとは正反対の認識を隠そうとしなかった。 確かに、ブッシュ大統領は、金大統領の「太陽政策」を支持したが、同時に、「金大統領が対北朝鮮政策でどんな前進をするときでも、事前に米国と協議すると約束した」という。 多分、このせいと思われるが、北は三月十三日開催の南北閣僚級会談を当日になって不参加を通告してきた。ブッシュ政権の登場で「太陽政策」の矛盾が露呈してきた。 ◆北朝鮮は変化していない それはともかく、この米韓首脳の認識の違いは、ブッシュ政権が金正日政権を「ならず者、若(も)しくはテロ集団」と捉えているからである。この米韓の相違は、政権の本質をどう捉えるかという基本的なもので、外交技術の違いなどでは決してない。 今までわが国外務省は、コメ支援に反対する被拉致家族らに対して「拉致救出では皆さんと同じだが、方法・手段が違うだけ」といってきた。しかし、そうではないのだ。金正日政権の本質の捉え方が違っているから、方法・手段に違いが生じたのである。 全く同質のことが今回の米韓首脳会談で顕在化した。米国にようやく被拉致家族らと認識を共有できる政権が出現し、冒頭のような「打てば響く」関係が生まれたのである。 過去八年間のクリントン政権と金大中政権三年間の対北融和政策、また、日本政府の度重なる金正日政権に対するコメ援助で、一体金正日政権の何がどう変化したというのだろう。 拙著『朝鮮情勢を読む』(晩聲社刊)のなかで指摘しているように、北が変化したかどうかの判断基準は、(一)金正日への個人神格化が減少したか。(二)制度として需要と供給に基づく市場経済の導入、並びに農業の請負制を導入したか。(三)韓国の併呑政策(赤化統一)を放棄したかどうかである。 以上の基準から見て、現在の金正日政権には変化の兆しすら見えない。答えはノーだ。 逆に、金正日政権になってから実行されたことは、北朝鮮国民の一五%三五〇万人を餓死(北朝鮮から韓国に亡命した黄長●(ファンジャンヨプ)書記の話などによる)させ、軍重視、核ミサイルなど軍備の強化を図ったことである。 金正日政権が米本土に届く大陸間弾道弾を所有していることは確実。日本に届くノドン中距離ミサイル約百基が実戦配備されていることは新聞でも報道され、秘密ではない。このミサイルを迎撃するミサイル装置は米軍にも存在しないのだ。 クリントン政権、金大中政権の誤った北朝鮮政策で、日米の安全がこのように脅かされることになった。 ◆見当外れのことに終始 わが国は、日朝交渉推進と称し、一九九五年から金正日政権に合計一一七万トンのコメを事実上無償援助したが、周知のように日朝交渉も拉致の解決もまったく進んでいない。要するにコメをただ取りされただけである。 こうなった原因は、金正日政権の本質を取り違えて、テロ政権にモノやカネを与え、国際社会に誘導、考えを変えさせるなどとおよそ見当外れのことをいったりやったりしてきたからである。 北工作員が、日本人をわが国の領土から暴力で拉致した。これ以上の主権の侵害はあるまい。二十数年前にわが国の安全がかくも踏みにじられているのに国会で安保議論がなされるとき、なぜか拉致を踏まえたものがないのはどうしたことなのか。 何度でも繰り返していうが、政府の最重要任務は、国家の安全と国民の生命財産を守ることだ。日本人が北朝鮮に拉致され、生死不明になって、来年で四半世紀、二十五年となる。 それなのに解決のめどすら立っていない。思い余った六十歳代後半・七十歳代の親達らが肉親救出のために米国に足を運ばなくてはならない。なんという国家であろうか。 政府は、米韓にどんな政権が出現しようとも「わが国は、拉致問題が解決しない限り動かない」と毅然と主張することである。 これこそが、拉致解決への最も近道なのであることを知って欲しい。 ●=火へんに華
【正論】現代コリア研究所所長 佐藤勝巳 |