「拉致疑惑報道の謎を衝く!」

「噂の真相」8月号


安企部の非公式発表/「ソウルの噂話」を既成事実化

「北拉致はとんでもない」/元捜査責任者の「確信」

 朝日放送プロデューサーの石高健次記者が「国家安全企画部」高官から入手した「北の亡命工作員」の話を、「現代コリア」(1996年10月号)に紹介したことに端を発した「新潟少女拉致疑惑」は、本紙で再三指摘してきたように、産経新聞、「現代コリア」、「アエラ」などがキャッチボールしながら日本社会に波及させた。現場をくまなく歩き取材を重ねたフリージャーナリストの渡辺也寸志氏は、「噂の真相」8月号に「 横田めぐみ 拉致報道の謎を衝く!」と題する記事を掲載した。以下にその内容を抜粋して紹介する。(「韓国」の「」、見出しは編集部)

 

一挙に氷解した疑問

 筆者は、実際に「横田めぐみさん」が忽然として消えた新潟市の町外れを幾度も幾度も歩いてみた。…昼間のうちに土地勘を養い、夜、ひたすら歩いた。

 …「横田めぐみさん」は77年11月15日午後6時半頃、通っていた寄居中学校の課外活動であるバドミントンの練習を終えて帰路についた。なだらかな坂道を500メートル程進んで左折すると自宅である。…この日の新潟の日没は午後4時半、太陽が沈んで2時間が経過していた。彼女は暗い道を直進した。道のどん詰まりは日本海である。「めぐみさんは海の好きな娘だった」という証言が「北朝鮮拉致工作員」との接触の遠因とされているわけだが、しかし、彼女が海に向かったという痕跡は今のところまったく確認されていない。というのは彼女の失踪直後に投入された警察犬2頭が「横田さん宅」へ左折するT字路で立ち止まってしまったからだ。

 …彼女が消えたと思われるT字路から海辺までは約300メートル。…

 とにかく暗い。街路灯の傍だけ人間の判別が可能だ。現場の状況がつかめたところで、元新潟中央警察署長、松本瀧雄さんの家を訪ねた。松本さんは退官してはや19年になるが、彼女が失踪時の捜査責任者であった。突然の訪問にもかかわらず自らの「確信」と「疑問」を織りまぜながら当時のことを語ってくれた。…

 「横田めぐみさんはきちっとご両親に躾けられており、暗くなってから1人で海岸に行くような娘さんではありません。また警察犬が何度やっても自宅へのT字路で立ち止まるのは、あの地点で車か何かに無理矢理押し込められたと考えるのが自然でしょう」

 …ずっと抱いていた「横田めぐみさん拉致疑惑」への疑問が一挙に氷解したように思えた。これは単なる「誘拐」事件ではなかったのか。「拉致」は拉致でも北朝鮮のそれではなかったのではないのか。

 

情報源とは誰も会えず

 (「横田めぐみさん拉致騒動」から)1年半が過ぎた。あの「騒動」は一体何だったのだろうか。「韓国」の情報機関、「国家安全企画部」の非公式発表、いわば ソウルの噂話 にすぎない「未確認情報」をどんどんエスカレートさせ、よってたかって「既成事実」化したように見えて仕方がない。…報道は凄まじい絨毯爆撃であった。中身は圧倒的な「欠陥情報の押しつけ」であった。北朝鮮・亡命工作員の証言だけが唯一の拠り所だった。ウラはまったく取れていない。それでも「北朝鮮」「拉致」「少女」という3題噺の前には、ちょっと立ち止まって「事実」を検証しようという気運すら容易に生まれて来なかった。

 「拉致疑惑」が「政治問題」化すると共にいつのまにか「事実」にすり変わり、勝手に一人歩きを始めたようだった。

 …石高氏(編集部注・朝日放送プロデューサーの石高健次氏)は、この話(編集部注・「少女拉致疑惑」)を複数の「韓国国家安全企画部」高官から聞いたという。伝聞、又聞きである。情報元の亡命北朝鮮工作員を仮に「X」としよう。しかし石高氏の要請にもかかわらず「韓国」側はこの「X」を決して公表しようとはしなかった。日本のマスコミは誰一人「X」に接触することに成功していない。…「X」は果たして存在するのかどうかも不明なのだ。…

 『現代コリア』は「拉致された少女の身元は確認された」ということでマスコミへの情報提供を大々的に開始する。当時、新進党の西村眞悟議員の国会質問も用意したようだ。資料提供したのは、西村議員が元民社党ということもあってか、現代コリア研究所研究部長の荒木和博氏(元民社党全国青年部副部長)であったという。「根回し」は97年1月20日末頃までに集中したようで、西村議員は1月23日に衆院予算委員会に質問趣意書まで提出している。

 …西村質問は2月3日に行われたが、同じ日、『産経新聞』と朝日新聞の発行する週刊誌『アエラ』が「横田めぐみさん」の写真入りで大々的に報じた。

 

とてつもなく具体的

 2月3日、『産経』と『アエラ』を買い込んで成田からソウルに飛んだ報道制作プロダクションがあった。日本電波ニュースである。…翌4日、インタビューに応じた元北朝鮮亡命工作員の安明進から「横田めぐみさん」らしい人物について聞き出すことに成功する。…

 「X」とは違い公然とテレビ画面に登場した安明進の話はとてつもなく具体的であった。

 …突如登場した「安明進」という「韓国安企部」スポークスマンの活躍と西村眞悟議員の国会質問によって、「拉致疑惑」は一挙に「政治問題」に格上げされた。

 

海に向かった痕跡なし

 「安明進」証言の検証をしたい。…

 「横田めぐみさん」は工作員の近くを歩いていたという。そして、小型無線機でささやいているのを見てしまったので拉致されたのだという。これは本当だろうか?「現場百回」、先に書いた通り筆者は歩いた。あの暗さだ。街路灯がなければ「人間の判別」だって容易ではない。…

 元新潟中央警察署長、松本瀧雄氏は「一刀両断」、こう答えてくれた。「その工作員の証言に従うと隠れていた場所は海辺近くの松林なんでしょうね。しかし日没2時間後に無線機なんて見えるもんじゃない。それは出来すぎた話です。それに何度も言いますが、めぐみさんが海に向かったという痕跡はありません。やはりT字路でしょう、あの娘が消えたのは。当然、性的いたずらということで捜査もしました。しかし確実なものは何も出て来なかった。だから北朝鮮拉致ニュースは、とんでもない話だが…」