拉致疑惑」を斬る(上)
矛盾する「元工作員」の証言
朝鮮半島情勢に変化がある時、何故か日本では悪質なデマや奇々怪々な謀略が茶の間にまで飛び込んでくる。今、世間を騒がせている「新潟少女ら致事件」もその類いの一つである。
もちろん、横田めぐみさんが20年近くも行方不明であることは、実に不幸で同情すべき事柄である。
しかし、冷静に見れば、この事件は世界で最も優秀だと言われる日本の司法や警察がやむなくお蔵入りにした、世に万とあふれる行方不明事件の一つにすぎない。それが、明確な根拠もなしに「北朝鮮ら致疑惑事件」として独り歩きしているのである。
ある米国の心理学者は、「流言の強さ=事柄の重大性×その曖昧さ」という公式を提唱している。この公式を逆に当てはめるなら、正体不明の「亡命者」の言葉やソウル情報で固められたこの「疑惑」は、その根拠が皆無に等しく、曖昧である。
しかも今回の「疑惑」は発表のタイミング、正体のはっきりしない「証言者」、さらにその「証言内容」など、どれをとってもある特定の政治的意図と謀略性を明確に示している。
「反北感情」煽る
昨年末から朝米間の懸案問題においては大きな前進があった。それゆえ、朝・日関係でも久し振りに進展があるのではないかと期待されもしたが、その一方で危惧感があったのも事実である。何故なら、朝鮮問題で新しい動きがある時、必ずと言っていいほど大きな謀略事件が引き起こされたり、デマ情報が流されたりしてきたからだ。そして始まる「北朝鮮バッシング」の大合唱。このワンパターンの情報操作が朝鮮問題の好転を妨げ、複雑にしてきたのだった。
朝・日会談の進展を阻む高いハードルとなった、ありもしない「核の脅威」や「李恩恵問題」などがまさしくそれである。
今回の「疑惑」も、共和国を野蛮なテロ国家として印象づけ、日本国民の心の中に「反北朝鮮感情」を呼び起こし、日本政府をしてコメ支援にも日朝会談にも応じ得ないように手足を縛る役割を果たした。
この「疑惑」は、北を崩壊させることを目的とする専門謀略機関である「韓国安全企画部」(安企部)によって周到に仕組まれ、日本に向かってタイムリーに発信されることによって生じたものだ。
このようなデマを流すことによって政治的利益を得た者がいる。一連の「反北朝鮮騒動」の背後でほくそ笑んでいる者たちの顔や姿が目に見えるようだ。
安企部の代弁者
この「事件」を「証言」したのは、現在、安企部に囲われているという、いわゆる「北朝鮮の元対日工作員、安明進」(29歳)だと言う。何故、4年も過ぎた今になって、行方不明当時わずか9歳だった彼に、20年前に起きた知りもしない行方不明事件のことが 「証言」できたのか。
昔から「投降者や亡命者の発言は疑ってかかれ」と言われている。
安が本当に自首した元 「工作員」なのかどうかも定かではない。仮に「工作員」だったとしても、投降者や亡命者が、彼らを利用する側の思惑とシナリオの代弁者に成り下がるものである。これは古今東西、共通の真理である。
安の「証言」なるものを読んでみると、「自分は直接ら致には関わっていない→仲間から聞いた→見た→3回も見た→確実なことは言えないが写真と似ているような気がする…」というふうにくるくる変わり、つじつまが合っていない。
「政権」が危機に陥るたびに代弁者を使って世論を惑わし、腹黒い目的を達成する――これが「韓国政府」と安企部の常套手段なのである。(オ・イルチン ジャーナリスト)
[97/04/18]